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個人事業主の高齢化が進むなか、事業承継は多くの経営者にとって避けて通れない課題となっています。個人事業の場合、法人のように株式を引き継ぐわけではありません。しかし、事業用資産、顧客との関係、従業員、ノウハウなどを円滑に承継しなければ、長年築いてきた事業価値が失われる可能性があります。そのため、できるだけ早い段階から承継計画を立て、段階的に準備を進めることが重要です。
事業承継は短期間で完了するものではありません。後継者の育成、資産整理、取引先への説明などには時間を要します。理想的には5年程度前から準備を始め、事業の将来像や後継者の役割を明確にしておくことが望まれます。
個人事業の事業承継において、最も重要な論点の一つが事業用資産の承継です。法人の場合、事業に関する資産や負債、契約関係は法人に帰属しており、株式を承継することで経営権の移転が可能になります。一方、個人事業では、一つひとつの資産や契約が事業主個人に帰属してきます。よって、土地や建物、機械設備、車両、在庫、預金、知的財産権などについて、誰にどのような形で承継するのかを整理する必要があります。承継方法には大きく「生前贈与」「相続」「売買(事業譲渡)」があります。生前贈与は早期に後継者へ移転できる反面、贈与税の検討が必要です。相続による承継は一般的ですが、相続人間の遺産分割が課題となる場合があります。事業譲渡は第三者承継にも活用でき、対価を得られるメリットがある一方で契約手続きが必要になります。

個人事業では親族が後継者となるケースが多く見られます。しかし、実際には事業主が亡くなった後に初めて承継手続きが進められるケースも少なくありません。その結果、後継者による意欲的な事業展開や設備投資が遅れてしまったり、そのために必要な計画的な借入が思うようにできず、結果として事業機会を失うリスクもあります。
例えば、父親が30年以上にわたって営んできた建設業を、長男が承継するケースを考えてみましょう。
長男はすでに現場の中心として活躍しており、取引先からも「次は息子さんの時代だね」と期待されています。しかし、実際には事業承継の準備が進んでいないケースも少なくありません。
個人事業では、事業で使用している土地や建物、重機、車両などの資産は事業主個人の名義になっています。また、金融機関との融資契約や取引先との契約関係も、基本的には事業主個人に帰属しています。そのため、長男が実質的に経営を担っていたとしても、資産や契約関係が移転していない限り、本当の意味で事業承継が完了したとはいえません。
もし事業主に万が一のことがあれば、相続手続きや遺産分割協議が必要となり、その間に意思決定が遅れたり、設備投資や資金調達が進まなくなったりする可能性があります。
また、後継者の立場から見れば、将来事業を承継する予定であっても、自分名義の資産や十分な権限がないため、大きな設備投資や事業展開に踏み切れないケースもあります。結果として、本来得られたはずの事業機会を逃してしまうこともあるのです。
このような事態を防ぐためには、相続発生後に慌てて承継を進めるのではなく、事前に承継計画を立て、資産や契約関係を段階的に整理していくことが重要です。では、具体的にどのような対策が考えられるのでしょうか。

個人事業では、「後継者は決まっているが承継手続きは何もしていない」という状態が少なくありません。しかし、事業承継は相続対策であると同時に、将来の事業成長を実現するための経営戦略でもあります。早い段階から準備を進めることで、後継者が安心して経営を引き継げる環境を整えることができます。
中村 雄太